日本の聖地=聖なる場所は「山」が代表格であろう。
山には森がある。鬱蒼とした森林には「水」がある。水が湧き万物を育む。
そして山は、ときに火を噴く。火は森林を焼きつくし、岩をも変形させ、一切の穢れを焼きつくし、浄化する。「火祭り」はその現れだろう。
火はさらに「水」と結合し、「湯」を生み出す。湯は心身の汚れを洗い落とす。熱湯を体に浴びる修験道の神事はその典型。
また、「岩」も霊力を持つとされてきた。岩は神が降臨する「かみくら」であったり、生を司る男性器や女性器のシンボルとも見られて崇められてきた―日本人の思想には「山」「火」「水」「湯」「岩」を聖と崇める思想が刷り込まれてきている。
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ところで、この聖地の思想を最も的確に備えているのが阿蘇であろう。「山・火・森・水・湯・岩…」すべての条件が阿蘇ほど、今も目に見えて存在している場所はない。
阿蘇地方の「岩」はあまり語られないが、阿蘇の神・タケイワタツノミコトが弓の的にしたと伝わる「的石」がある。「七鼻八石」はじめ「大観峰」も岩の塊りだ。岩は立って聳えるものとは限らない。地に伏して、見えない形で「かみくら」をつくり、水を流している所もある。小国地方に見る一枚岩の川床はじめ「マゼノ渓谷」の川床も神秘だ。地の底に、水も洩らさぬ大きな岩床が横たわり、その上を、優しく水が流れ過ぎていく。
そのマゼノ渓谷の上に、自然の丘の上に、まさに唐突に巨石群が群れ、並んでいる。しかも、それらは、磁気を帯び、男女の性器を思わせ、おまけに太古のシュメール文字が刻まれている。
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訪ねてみた。阿蘇の方から。
阿蘇外輪山の大観峰から国道212号を小国、杖立温泉方面へ、前方にくじゅう連峰がゆったりと裾野をひいている。
左右は緑がうねる草の海。車窓の後方は阿蘇五岳。民家は視界のどこにもない。点々と群れる赤牛…日本離れした一大ワイドロケーション。
やがて唐傘松の跡地、西の方へ標識に従って10分足らずマゼノ渓谷。一枚岩の川床の上を渓流が滑るように流れていく。まるで聖地に入る前のみそぎをしている感じ…。
駐車場から歩いて15分程。
ややつま先上りの道だが、遠足気分で登れる道が続く。トレッキングの険しさはない。
視界が高くなるにつれて周囲の展望が一廻りも二廻りも大きく、広く開けていく。文字通りの緑の海。秋から冬はラクダ色の世界は、それだけでも非日常の大自然に包まれてしまう。
標高845mの押戸石山の頂き、巨きな、大きな岩が、山頂の草原の中に、むき出しに顔を出している。最大の「押戸石」といわれる巨石はピラミッドのような三角錐、身の丈の3倍近い5.3m、周囲は15.3mという。しめ縄が張られている。シュメール文字が刻まれていたが、読みとれる学はないが、なにやら摩訶不思議な空間だ。
鬼の手まり岩、手だま岩と呼ばれてきたように、鬼の仕業としか思えない。
360度の展望のなか、天界に近い場所人が集まり易い場所・・・古代の人は、この地でどんな祈りを捧げたのだろうか―。