麺料理に関する情報は世の中に溢れているが、ここでは少し視点を変えて、「歴史・文化を掘り下げる蘊蓄の旅」シリーズらしい麺文化を紹介したい。最初は、長崎市外海町出津の「ドロさまそうめん」。この地は隠れキリシタンの里として知られ、キリシタン禁教の時代には、信者達が移り住んできたと言われている。禁教が解けた明治の初めにこの地に赴任したマルコ・マリ・ド・ロ神父は、布教活動のかたわら村民の生活向上のために製パンなどの様々な技術を伝えたのだが、その一つに製麺技術があったとされる。この由来からも、まさにキリスト教関連遺産群の世界遺産登録を目指している長崎にふさわしい麺文化と言えるだろう。
戦争などにより一旦はその歴史が途絶えたというが、シスターの記憶を頼りに、熱心な地元生活改善グループの方々の力で復活した。落花生油を引き油に使用している独特の製法で、今も全て手作業によっている「純手延べそうめん」である。
また、「ドロさま」という名称にも、地元の方々の神父に対する「想い」が感じられる。
さらに、外海と言えば、遠藤周作の小説「沈黙」の舞台。遠藤周作文学館が建てられている場所としても知られる。館内の喫茶店では、「ド・ロさまそうめん」、「ド・ロさまパスタ」が味わえる。
「うどん」はその製法だけでなく、語源も中国にあるという考えが強く、様々な説がある。長崎、五島列島の「五島うどん」の由来もまた、遣唐使の寄港地であったというその地理的特性が理由なのであろうか、様々な説がある。
一つは、もちろん遣唐使の時代に五島列島に伝わった、という説。他にも、元寇の役で捕虜となり五島に住みついた中国人が教えた、という説や、大陸との海上航路の拠点であった瀬戸内海の海賊たちに、鯨獲りの技術を教え、その恩返しにうどんの秘伝を教わった、という説などなど、数多くの伝承が残っているそうだ。
さらに、近年の研究からは、中国・浙江省永嘉県岩坦地区に伝わる索麺と五島うどんの製法が極めて酷似していることも判明しているとのこと。今後、さらに研究が進み、新たな事実が明らかにされていくのだろう。
その「五島うどん」は、「手延べ」の技によってコシが強く、切れにくいのが特徴。地元では大鍋にたっぷりの湯を沸かし、うどんを適量入れて煮えたら「あご(トビウオ)ダシ」のつけ汁でいただく、「地獄炊き」が定番。その由来は、「五島うどん」を初めて食べた旅人が「しごくおいしい」と褒めたのを、地元の人が「地獄おいしい」と聞き間違えたため、という微笑ましい話。食したら地獄に落ちる、というわけでは決してないのでご安心を。
(参考/「五島手延うどん協同組合」 ホームページ)