虚子は「…川の向う岸には此の山中には珍しい沢山の家があって、家の間から盛んに湯気が上がってゐた。…道端に盛んに噴き出している温泉を利用してそれで茹でたうどん…」を食べたりした。
松本清張も「西海道談綺」の中に杖立を登場させている。「杖立の谷川は特別だ。周囲の山林の蒼さが川にそのまま落ちて、よけいに濃い藍に染めている。それに岩を噛んで吹く水泡が雪のように真白い…」
小国は江戸時代から頼山陽・広瀬淡窓をはじめ多くの文化人が訪れている。また小国は俳諧が盛んで、中心的存在だった笹原芳介(俳号耕春)氏が、高浜虚子や高弟の高野素十を招いた。虚子は笹原耕春宅にも宿泊している。笹原宅の庭は国史跡庭園修復に定評のあった平岡繁夫氏を招き、山採りの朴・檪などを取り入れた回遊式庭園。
小国町宮原の両神社は、阿蘇神社の主祭神健磐龍命の孫神、火の宮・高橋の宮とその母神雨宮を主祭神としている。境内には巨木が並び歴史の重みを感じさせる。参道の近くには、薄幸のヒロイン小松女院の悲恋の物語が伝えられる鏡ヶ池がある。
虚子の句碑「ちりもみじ暫くしては散り紅葉」が建っている。
●弘法大師ゆかりの杖立温泉は筑後川の上流地。渓流の両側に宿が並ぶ。大分県と接している。県境がホテルの中を通る(ひぜんや)ホテルもある。杖が必要な人も温浴効果で元気になり杖を忘れて帰るほど—から杖立の名がついた。その昔、貝原益軒も福岡城下から湯治に来た。初夏には無数の鯉のぼりが杖立川にかかる。
●近くに菊南温泉、漱石が宿した小天温泉があるが熊本市内には本格的温泉はない。
杖立温泉では川魚、山菜、肥後牛、熊本市内では馬刺し、からしレンコン、それと豚骨スープのラーメンが定番になっている。馬刺しを食べる風習は本土では熊本と信州・長野県だけと聞くが、どうして熊本に馬刺しがという謎は解けない。