かつて、昭和27年、虚子は身内の立子、汀子らと別府〜杖立温泉〜大観峰〜熊本〜太宰府を旅した。
その主な目的は、阿蘇・小国である。虚子には「険の底の小国」と自分で表現するほど小国には訪れねばいけない義理があった。その義理の中心人物は梨影女という美しい娘さんである。
その人を中心に虚子の小国紀行は綴られる。小国は俳句が盛んなところ、笹原耕春氏をはじめ多くの句友がいる。小国・杖立温泉で二泊した虚子一行は阿蘇大観峰を経て、熊本市へ。さらに太宰府へ。
実に、やさしい穏やかな口調で思いやりの文で終始している。阿蘇のたたずまいが丹念に綴られ、ポイントポイントでの句作も記された素晴らしい「紀行文」。
紀行文「小国」を手に、吟行の旅は俳句を友とする人たちには、虚子と同じく「瞼の底に、心の底にいつ迄も残るだろう」
虚子が辿った道には虚子の句や歌が碑になって建っている。小国町笹原邸「火の国の山裾の山並の幾尾根越えて小国やはある」。両神社「散紅葉 しばらくしては 散紅葉」の句碑、大観峰の散策‥‥。それらを辿りながら虚子の暖かい描写力の紀行文を読むと虚子と一緒に旅しているようだ。
句友の阿部小壷、後藤是山、あるいは中村汀女の旧居・母など、古い時代の面影が浮ぶ。
吟行の旅にうってつけ。ゆっくりした行程での阿蘇の山裾を巡る。それにしても虚子は当時のアクセスの悪い道を、よくぞ廻ったと感心する。今の人は怠惰になったのか。
むささびの話小国の夜長かな 「年尾」
嬉しさの紅葉の旅はなほ続く 「梨影女」
君がため遠見ヶ鼻の竜胆を 「虚子」
とうとうと澄みて流れて静川 「立子」
熊本空港~(約110分・バス)南小国~(10分・タクシー)小国町~(15分・タクシー)杖立温泉
杖立温泉~(45分・タクシー)大観峰~(約25分・タクシー)阿蘇~(約80分・特急)熊本市
熊本市~(約40分・JR+38分・九州新幹線)二日市~(15分・徒歩)西鉄二日市駅~(5分・西鉄電車)太宰府~(5分・西鉄電車)西鉄二日市駅~(25分・西鉄電車)天神~(12分・地下鉄)福岡空港