ラーメンを我が国で初めて食べた人は水戸光圀公であった、という話はよく知られているが、ラーメンは戦後になって急速に我が国に普及し、今や国民食と呼ばれる存在になった。全国各地に「ご当地ラーメン」が存在するが、九州と言えば、白濁スープの豚骨ラーメン発祥の地として全国に定着している。特にここ数年で、それまで豚骨スープに馴染みの無かった大都市圏でも、豚骨ラーメンの店がかなり増えている、と言われているが、何故なのか。一つには、日本人の食生活の変化が挙げられるのではないか。豚骨ラーメンを提供する店の多くは、豚骨特有の匂いが店内に漂っており、ラーメン自体の匂いも他地域のものと比べて強烈である。この匂いこそが豚骨ラーメンの魅力、と言う人もいれば、逆にこの匂いが好きではない、と言う人もいて、好き嫌いの差が激しく出てしまう。もともと、地元九州においても、豚骨ラーメンに抵抗がある人は女性を中心に少なくなかったのは事実である。
しかし、我が国の食生活が戦後大きく変化し、肉食が普及していくと、豚骨ラーメンの匂いに抵抗感を持つ人が少なくなってきた。それが、豚骨ブームの背景にあるのではないだろうか。
豚骨ラーメンのルーツについては、既にこの項で触れたように、久留米というのが定説になっている。それも、長崎ちゃんぽんの影響を受けているとされ、九州の食文化が生み出した料理の一つには間違いないだろう。特徴は、豚骨を強火でじっくりと長時間煮立てることで、水と豚骨の油が混じり合い乳化することによって生まれる白濁スープだが、これは、あるラーメン屋が豚骨を煮込み過ぎて偶然に生まれたもの、という説もある。乳化することによって、水に溶け出していた旨味が脂に包まれ、コクのあるまろやかな味になると言われている。
九州各地のご当地ラーメンは、それぞれ豚骨スープをベースとしながらも、微妙に違っている。ここでは、特に「その2」で紹介している宮崎、鹿児島、熊本のラーメンの特徴を挙げていきたい。
既に述べたように、ご当地ラーメンとしての知名度はそれほど高くないが、他の地域に決して引けを取らないラーメンである。スープは豚骨ベースだが比較的あっさりしており、博多ラーメンと比較して柔らかめの太麺が使われている。店の卓上に置いてあるにんにく醤油を加えると風味とコクが増す。また、セットでたくあんが付いてくる場合が多い。
鹿児島ラーメンのスープは、他の九州の豚骨ラーメンと比較しても、かなりの違いがある、と言われる。豚骨だけでなく鶏ガラも合わせたスープをベースに、野菜なども使用されている。ただ、各店舗の個性が強く、共通する特徴をそれ以上言葉で表現するのは非常に難しい。宮崎ラーメンと同様、漬け物が付いてくる場合が多い。
既に触れているように、久留米の豚骨スープがルーツ。細麺の博多ラーメンよりも麺は太く、濃厚なスープが特徴。また、揚げニンニクやマー油(にんにく油)を入れることにより、より濃厚にかつ香ばしく味わうことができるのも特徴の一つ。
これらの地域に共通して言えることは、地域の人たちがラーメン好きであり、「ご当地麺」を支えている、という事実である。是非、九州に観光でいらっしゃった方々にも、地元のお客さんたちと一緒に「ご当地麺」を食して頂きたい。文字情報では決して明らかにならない、新たな発見があるに違いない。