2020年6月、文化庁の日本遺産に認定された「砂糖文化を広めた長崎街道シュガーロード」。九州随一の脇街道「長崎街道」の始発・長崎から運ばれた砂糖は、土地の風土を取り入れながら様々な形で独自のスイーツ文化を生み出してきました。今回は長崎県諫早市で誕生した銘菓「諫早おこし」を紹介します。
江戸時代、全国でも有数の穀倉地帯だった諫早。米は貴重な食べ物でしたが、米どころ諫早には余剰米があり、さらに長崎街道の宿場町でもあったことで、米と砂糖を使用した贅沢なスイーツ「諫早おこし」が誕生しました。
おいしい「諫早おこし」を求めてまず訪れたのは、1793年創業の老舗「菓秀苑森長」。こちらの看板商品「森長おこし」は、初代・森龍吉が独自に考案したレシピを、歴代の職人さんたちが受け継いているもので、技術と知恵が詰まった伝統の味になっています。定番の「黒おこし」は黒糖を生のままで使用しているのが特徴で、カリッとした歯応えと香ばしさ、所々に残る黒糖の粒の存在感と口溶けがたまりません。
「Puchi OKOC(ぷちこしー)」シリーズは、食べやすい一口サイズとポップなデザイン、多彩な味で、発売以来の人気者。キャラメルやいちご、梅など全5種類から選べます。同市内の老舗割烹「水月楼」のうなぎのたれを使用した、土用の丑の日だけ登場する激レア商品「うなおこしー」など、楽しい企画にも目が離せません。
実は「砂糖文化を広めた長崎街道~シュガーロード~」は多くの文化財で構成されており、「諫早おこし道具」もその1つです。「菓秀苑森長」では現在も「復刻版黒おこし」などの商品を昔ながらの道具と製法で作っています。「フルオートメーション化もできますが、職人技、手作業の部分で人の温もりを伝えていきたいんです」と話すのは、7代目当主の森淳さん。おこしづくりの現場を案内してくれました。
森さんが持っているのは、布を何重にも巻いて手作りした「枕」と呼ばれる道具。水に浸すことで、カットする際におこしと刃がくっつかないようにする役目を担います。使用するごとに刃の切り込みが深くなるため、2、3カ月で新調するそう。
大きな銅鍋で炊いた水あめを、おこし種「乾飯(ほしいい)」に絡める機械「撹拌機」(写真左上)。木べら(右上)ほか、年季が入った道具ばかりです。「延ばし板」(左下)は、手作業でおこしを成形する道具。出来立てでまだ熱を持つおこしを素手で広げた後成形し、裁断します。
70年ほど前から使用している「炒り機」(写真左)。天日で干して加工したうるち米に熱を加えることで、ポン菓子のような乾飯(写真右)ができます。
甘い香りで満たされた工場におじゃましましたが、パイやカステラなどの人気商品が最新式のオートメーションで焼き上がっていく中、おこしの生産エリアでは半世紀以上の年季が入った道具や機械が現役で活躍しています。「素材、工程共にシンプルなおこし作りは、温度や湿度、材料の配合率など、絶妙なバランスが要求されます。だからこそ道具を生かす職人さんの技術と経験が大切なんです」と森さん。時代に合わせながら、伝統を守り受け継ぐおこし作り。森長おこしの枕詞「昔なつかし今あたらし」の意味を理解できた工場見学でした。
諫早おこしの代名詞・黒おこしはもちろん、杉谷本舗でぜひ食べてもらいたいのが熟練の職人が1枚1枚丁寧に作る「白おこし」。繊細な歯触り、米の香ばしさと優しい甘さ、柔らな口溶けが楽しめる、独自の技術が詰まった逸品です。
米にチョコレートをコーティングした「チョコメ」ほか、おしゃれな新製品も人気。コラボ商品も多く、諌早農業高校と杉谷本舗で作った「みかんおこし」は、ながさき手みやげ大賞を受賞しました。伊木力みかんの甘酸っぱさが絶妙な「みかんおこし」には、地域興しへの熱い思いが込められています。また、プロサッカーチーム「V・ファーレン長崎」のスポンサーになり、チームのマスコットキャラクター「ヴィヴィくん」を描いた「またのおこしを」を登場させるなど、地元を盛り上げるかわいらしいコラボ商品にも要注目です!
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