このところ、日本の音楽シーンは「沖縄系」のミュージシャン抜きには語れない。オレンジレンジ、BEGIN、夏川りみ、そして沖縄出身ではないが奄美大島生まれの元ちとせや、東京のバンドながら「島唄」を海外でもヒットさせたザ・ブームなどもその仲間だろう。
南の島の持つ大らかさ、ダイナミズム、そして旋律の奥からにじみ出る哀愁が、ヤマトンチュ(本土人)の心も虜にするのだ。
よく「島唄」という。一般的に沖縄民謡を指すことが多いが、同じ島唄でも「奄美大島」のそれは、沖縄とはまたひと味違う。奄美生まれの、元ちとせの歌声を聞くとよくわかる。
小さいときから奄美民謡を歌ってきたという彼女の声は、たとえポップスであっても独特の「裏声」に彩られる。波のうねりのように、力強さから神々しいほど透明な高音まで自由自在に行き来する、その裏声がまさに「奄美の島唄」の特長である。
沖縄の島唄と、もう少し比べてみよう。
共通点ももちろんある。歌詞は、琉歌と同様に「八八八六」調の30音。「七七七五」調26音の日本民謡とは明らかに違う。
三線(蛇皮線)を使うのも共通だ。しかし、沖縄の三線に比べて奄美では糸が細く、皮も薄いという特長がある。そこから生まれる音も、高く透明感を持つ。奄美島唄の「裏声」には、この三線だからこそしっくりと寄り添うのだ。
三線の奏法にも違いが見られる。琉歌では指先にツメを付けて糸を弾いて演奏するが、奄美の三線は竹の皮を細く薄くけずった「バチ」を使う。上から下に向けて弾くバチと、逆に奏する「返しバチ」があるのも奄美らしさである。
もう一つ大きな違いが「音階」である。沖縄には独自の「琉球音階」がある。平たく言えば「ドミファソシド」で作曲するのだが、奄美大島の音階は日本民謡と同じ「律音階」(ドレミソラド)。本土の民謡と同じだから、耳にもなじみやすい。言い換えれば、奄美の島唄は「日本本土民謡の南限」といえるかもしれない。
「寅さん」シリーズの最終回、奄美の加計呂麻島を舞台にした『紅の花』では、印象的な場面で島唄が流れていた。夜、リリーと寅さんのすぐそばで、浜に座った島人たちが三線を弾きながら歌う。唄は、はぐれ者の二人の心を包み込むように、夜空に消えていった。
奄美では「島」はアイランドだけを指すのではない。「郷里」とか「出身地」を意味する。つまり、日本中どこにいても「自分の集落の歌」なのだ。寅さんとリリーの耳にも「自分の故郷の歌」として、きっと聞こえていただろう。